東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)312号 判決
事実及び理由
一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告が主張する審決取消事由の存否について検討する。
1 本件考案の構成について
原告は、審決の対比判断の誤りをいう前提として、本件考案の構成としてAの組ないしEの組もしくはB′の組ないしD′の組にわたる具体的な考案の実施の内容をあげているが、成立に争いのない甲第二号証によれば、これらは本件考案の実施例、実施態様について述べたものであつて、本件考案の構成はこれらの具体的態様に限定されるものではなく、これらの実施例、実施態様を包含する、一定の線番毎に符号を異ならせるもの総てを含んだ上位概念として把握すべきものであつて、その登録請求の範囲に記載されている、前記争いのない本件考案の要旨のとおりのものとして検討すべきであることはいうまでもない。
2 第一引用例について
成立に争いのない甲第五号証によれば、第一引用例は、第一表に示されている線番1ないし10及びS1ないしS3と、線番11ないし20及びS4ないしS6とで符号が異なつてはいるものの、審決が具体的に認定するとおり、少なくとも、本件考案の構成要件のうち、第一種線心は一個の符号、第二種線心は連続した二個の符号、第三種線心は連続した三個の符号を有する標識付電線の構造を明確に示していることが認められる。したがつて、第四種線心を連続していない異なつた符号で識別していることは原告主張のとおりであるけれども、第一引用例記載のものを右認定の範囲内で前掲本件考案の要旨にかんがみ、容易推考の根拠として引用することに何ら判断の誤りはない。原告のこの点に関する主張は採用することができない。
3 第二引用例について
成立に争いのない甲第六号証によれば、第二引用例は、原告が主張するように、直接に対象として述べているのは局外用のケーブルについてであるが、そこには、通信用ケーブルのA線ないしD線の四種類の線を識別するために、それぞれ一つないし四つの点を順次連続して配置した紙を巻付けることが記載されている。そして、この技術は局外・局内を問わず、「例えば電話・電信等の通信に使用される電気ケーブル」(第一頁左欄第九行ないし第一一行)一般に適用可能なものであることが認められる。しかも前掲甲第二号証によれば、本件考案は、その登録請求の範囲に「標識付電線」と規定し、発明の詳細な説明にも、「ここに電線とはケーブルの心線および線類の各線を意味するものであり、」(第二頁右欄第一二行、第一三行)、「複雑な共通制御装置や計算器等は勿論電子機器に対して線の方向を……識別出来る」(第一頁右欄第三四行ないし第二頁左欄第一行)とあるだけで、特に局内ケーブルに限定するものではないことが認められる。したがつて、第二引用例の技術と本件考案とは、局内ケーブル・局外ケーブルの如何にかかわらず、少なくとも、通信用ケーブルという同一技術分野に属するものであるから、同じく通信用ケーブルの識別に関する本件考案の容易推考の根拠として第二引用例の技術を引用し、対比することに何ら判断の誤りはない。原告のこの点に関する主張も採用することができない。
4 本件考案の進歩性について
前記認定のとおり、第一引用例には、本件考案における第一種線心ないし第三種線心に関する識別のための構成と同様に連続した一個ないし三個の符号を順次付する標識付電線の構造が示され、更に、第二引用例には四本の通信用ケーブルの識別のために連続した一個ないし四個の符号を用いることが示されているから、第一引用例に示された技術を、第二引用例に記載された技術に適用して、四種類の心線に拡大し、本件考案のように構成することは、当業者がきわめて容易に想到・実施することができたものと認められ、前掲甲第二号証、第五号証、第六号証によれば、本件考案の作用効果も、第一引用例、第二引用例の記載から予測することができる範囲内のものと認められるので、本件考案の進歩性を否定した審決の判断に誤りがあるということはできない。
三 そうすると、原告の主張はいずれにしても理由がなく、本件審決を違法としてその取消を求める原告の請求は失当として、棄却すべきものである。
〔編註〕本件考案の要旨は左のとおりである。
第一種線心乃至第四種線心よりなり、各種線心は少くとも第一種線心は一個の符号、第二種線心は連続した二個の符号、第三種線心は連続した三個の符号、第四種線心は連続した四個の符号を有する標識付電線の構造。